一括下請負の禁止(建設業法22条)
- 建設業者は、その請け負った建設工事を、いかなる方法をもってするかを問わず、一括して他人に請け負わせてはならない。
- 建設業を営む者は、建設業者から当該建設業者の請け負った建設工事を一括して請け負ってはならない。
- 前2項の建設工事が多数の者が利用する施設又は工作物に関する重要な建設工事で政令で定めるもの以外の建設工事である場合において、当該建設工事の元請負人があらかじめ発注者の書面による承諾を得たときは、これらの規定は、適用しない。
- 発注者は、前項の規定による承諾に代えて、政令で定めるところにより、同項の元請負人の承諾を得て、電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であって国土交通省令で定めるものにより、同項の承諾をする旨の通知をすることができる。この場合において、当該発注者は、当該書面による承諾をしたものとみなす。
→ 一括下請負の禁止について(平成28年10月14日国土建第275号「国土交通省ホームページ」)
請負人は、その本来の性格からみれば建設工事を完成しさえすればよく、その手段や実際の工事の施工については自由に行い得るとも考えられる。しかし、建設工事はその性格からして、的確な目的物の完成を期待するためには、その工事の施工の全般にわたって適正な施工を求められるものであり、注文者の建設業者の選択に関する重要な要素の一つとして、当該工事の施工の全般にわたる信頼性がある。
そのため、請負人が自己の請け負った建設工事をそのまま一括して他人に請け負わせる一括下請負は、この注文者の信頼に反するものであり、実際上の工事施工の責任の所在を不明確にし、ひいては工事の適正な施工を妨げるものであり、また、中間において利潤をとられる場合が多く請負代金の増嵩又は工事の質の低下を招くことも予想される。
加えて、一括下請負を容認すると商業ブローカー的不良建設業者の輩出を招くことともなり、健全な建設業の発展が阻害される懸念もある。
一括下請負とは
元請負人等がその下請け工事の施工に実質的に関与することなく、以下の場合に該当するときは、一括下請負に該当する。
- 請け負った建設工事の全部又はその主たる部分について、自らは施工を行わず、一括して他の業者に請け負わせる場合
- 請け負った建設工事の一部分であって、他の部分から独立してその機能を発揮する工作物の建設工事について、自らは施工を行わず、一括して他の業者に請け負わせる場合
単に現場に技術者を置いているだけの状態や、元請負人(下請契約における注文者)との間に直接的かつ恒常的な雇用関係を有する適格な技術者を現場に配置しなかった場合については、実質的に関与したとは言えません。
「下請工事への実質的な関与」が認められるためには
- 元請負人が自ら総合的に企画、調整及び指導を行っていること。
具体的には、元請負人の技術者が、
①施工計画の作成 ②工程管理 ③出来型・品質管理
④完成検査 ⑤安全管理 ⑥下請業者への指導監督
等について、 主体的な役割 を現場で果たしていることが必要 - 上の業務を 2業者で分担して行うのは 原則不可。
(1業者が必要人員を現場に配置すれば、可能なため) - 発注者から工事を直接請け負った者については、加えて
⑦発注者との協議 ⑧住民への説明 ⑨官公庁等への届出等
⑩近隣工事との調整
等について、主体的な役割を果たすことが必要
第1項 元請の一括下請負の禁止
「いかなる方法をもってするかを問わず」とは、契約を分割したり、あるいは他人の名義を用いるなどのことが行われていても、その実態が一括下請負に該当する者は一切禁止するということである。
「他人」とは、発注者と請負人以外のすべての者を指すものである。
元請が果たすべき役割施工契約の作成 |
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工程管理 |
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品質管理 |
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安全管理 |
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技術的指導 |
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その他 |
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第2項 下請の一括下請負の禁止
下請負人に対しても一括下請負に該当する請負行為を禁止し、このような一括下請負を避けることを元請負人と下請負人の双方の義務とした。
本項の禁止の対象となるのは「建設業を営む者」であり、建設業の許可を受けていない者も対象となる。
下請が果たすべき役割施工計画の作成 |
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工程管理 |
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品質管理 |
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安全管理 |
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技術的指導 |
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その他 |
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※は、下請が、自ら請けた工事と同一の種類の工事について、単一の建設企業と更に下請契約を締結する場合に必須とする事項
第3項 一括下請負の禁止の例外
一括下請負に該当する場合であっても、請負代金の額が適正に定められた元請負人と下請負人の間における不当な中間搾取がなく、下請契約の内容も適正であり、工事の適正な施工が保証されている場合は、とくにこれを禁止する理由及び実益はない。
共同住宅を新築する建設工事は上記承諾があっても禁止されている。また、当該工事が入札契約適正化法に規定する公共工事に該当する場合には、本項の規定は適用されず、一括下請負は一切認められない(同法14条)。
「共同住宅を新築する工事」とは、一般的には、マンション、アパート等を新築する建設工事が該当するが、長屋を新築する建設工事は含まれない(共同住宅であるか、長屋であるかは、建築基準法6条の規定に基づき申請し、交付される建築済証(により判別することが可能)。
事前に発注者から承諾を得て一括下請負に付した場合でも、元請負人は、請け負った建設工事について建設業法に規定する責任を果たすことが求められ、当該建設工事の工事現場に建設業法26条に規定する主任技術者又は監理技術者を配置することが必要である。
公共工事については、一括下請負は全面的に禁止されている(公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律12条)。
第4項
発注者は、一括下請負の承諾に係る通知を電磁的方法により行うことができるが、その際にはあらかじめ元請負人の承諾を得る必要がある。
本条違反の場合
指示、営業の停止、許可の取消等の監督処分の適用がある。この場合においても、下請負契約自体が当然に無効となるものではない。
実際の請負契約においては、特約で個々の工事を下請に出すことを禁止又は注文者の承諾にかからしめていることが少なくないが、判例ではそのような下請負禁止の特約に違反する下請契約も、請負人の注文者に対する債務不履行を生ずることとなるのは別として、下請契約自体は無効ではなく、有効であるとされている(大判・明45・3・16)